大阪高等裁判所 昭和40年(う)475号 判決 1965年7月03日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
控訴趣意第二点(法の解釈適用の誤りの主張)について。
所論は、刑法二〇〇条は日本国民に対してのみ適用があり、外国人には適用がないのに、原判決が、被告人も被害者も共に韓国人である本件につき、尊属殺人未遂を以て問擬しているのは法の解釈適用を誤つたものであるというのである。
わが刑法は、その一条において、いわゆる属地主義を採用し、「本法ハ何人ヲ問ハス日本国内ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス」とし、いやしくも日本国内で罪を犯した者は国籍の如何を問わず刑法の適用を受ける旨を規定しているのである。従つて刑法二〇〇条も外国人にも又適用のあることは当然としなくてはならない。けだし同条について、外国人を除外する旨の規定もなく、また日本人の直系尊属についてのみ適用すべきであるという特別の理由も見出すことができないからである。
ところで刑法二〇〇条は「自己……ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス」と規定しているが、ここにいう直系尊属とは子又は孫等よりみて父母、祖父母等の系列にあたる者をいうものと解すべきところ、その関係は事実上の関係ではなく法律上の関係をいうものであることは明白である。従つてその法律関係は日本人については民法等日本の法律により、その定めるところに従うべきことは勿論であるが、外国人については、民法等日本の法律の適用があるわけではないから、結局法例二〇条等によつてこれを定めるべきものと解せられる。そして本件に関する親子間の法律関係は、法例二〇条によれば、父の本国法によるべきものと規定するから、被告人と父姜明日間に法律上の親子関係従て尊属関係が認められるかどうかは姜明日の本国法たる韓国法によつて決すべきものと解せられるのである。
そこで韓国法をみるに、韓国民法(西紀一九五八年法律四七一号)八四四条、八五五条等によれば法律上の実親子関係について定められており、七六八条以下に尊属に関する規定があつて親が子にとつて直系尊属とせられることが明らであるし、(同民法は同附則二条によつて遡及効を有する旨定められるから、当然被告人及姜明日についても適用がある)更に韓国戸籍法および記録中の被告人の戸籍謄本を対照してみると、本件被害者である姜明日と被告人間には韓国法上親子関係があり、被告人によつて姜明日が直系尊属にあたることが明らかである。しかもその関係はわが民法に照しても又同様であることが明白であるから、姜明日は被告人にとつてわが刑法二〇〇条に定める「自己ノ直系尊属」に該当するものといわなくてはならない。
然らば原判決が被告人に対し尊属殺人未遂罪として刑法二〇〇条二〇三条を適用処断したことは正当であり所論の如き法律の解釈適用を誤つたものということはできない。論旨は理由がない。(山田近之助 藤原啓一郎 瓦谷末雄)